■ 堀江敏幸 / めぐらし屋

久しぶりに読んだ堀江敏幸。彼の著作はいまだに「出ると買う」パターン継続中なのだが、この2,3年、他で時間を取られることが多くなかなか手に取ることができなかった。ここへきてようやく購入済みの数冊を読み始めたところである。まずはこちらから。
全190頁ほどの小説。そういや、この著者に限らず、小説自体、読書するのがかなり久方ぶりだったりする。
読後もそうだが、読中も、まことに快適な時間を過ごすことができた。この作家の作品の中でも、個人的には、かなり好きな作品になった。
三人称語りの文章で、主人公は「蕗子さん」と呼ばれる。三人称語りで、登場人物に「さん」という敬称を付けるのは珍しいように思うが、文体や小説のムードからは何の違和感もなく受け入れられる。
むしろ、読み進むほどに、これは「蕗子さん」と呼ぶほかないという気になってくる。
物語は、彼女が、亡くなった父親の借りていたアパートの一室で、文机の引き出しから大学ノートを見つけるところから始まる。
それを取っ掛かりにして、父親がその部屋で請け負っていた「仕事」を探り、辿っていくさまが描かれる一方で、勤務する会社の同僚や後輩、また友人等とのごく日常的な交流や新しい出会いが、ユーモアを織り交ぜながら丁寧に描写されていく。そう、物語の一応の本筋以外のちょっとした事柄についての描写が実に細やかなのである。さらに、蕗子さんの、ちょっと不器用だったり、抜けていたりするところはあるものの、いやだからこそと言うべきか、まっとうに正直な生きていこうとするその姿勢には、ああいなぁこういう感じと、陰ながら声援を送りたいような気分になる。物語が終わってからもそのさりげないけれど、一つ一つのことを自身の事柄としてきちんと引き受けようとする彼女のその先を、何だか伴走者として見守っていたくなるような、そんな物語である。
お薦め。

