豆腐に柳

音楽、書物、映画等の感想、その他日々のあれこれ

ホテルニュートーキョー / 2009 Spring / Summer

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 曽我部恵一主宰のレーベル'Rose Records'からデビューした、今谷忠弘率いるバンドの2ndアルバム。
 クロスオーヴァーあるいはフュージョンをベースに、かなりポップなテイストを盛り込み、ただ「甘さ」は控えめに抑えた、洗練された都市の音楽、というあたりに落ち着くのかと思う。
 ホーンが重なり、けだるい装いのコーラスが曲を導く。エレピが70年代的ムードを適度に振りまき、「ジャズ」はあくまで「アレンジ」としてのスパイスとして役割にとどめ、あくまで汗臭さは廃し、間口を広めに取った、まことに「ポップ」で「ラウンジー」で「イージー・リスニング」な音である。
 なんだか、ここまで書くと却って皮肉を言っているように取られるかも知れないが、決してそうではない。
 実にセンスのよいバンドである。ただ、やはりこれは相当意識されて練り上げられた、ある種、「スタイル」のみで構成された、きわめて「人工的」な音楽だと言えるかもしれない。ただし、その素材、あるいは「パーツ」は、これまでのポピュラー・ミュージックのエッセンスであるわけだからして、当然のように「先人」の温かい血が通ったものである。だからいくらエディトリアルにカット&ペーストして作り上げられたとしても、どうしたって我々の「心を打つ」ようにできている。
 そういう意味では、きわめて「確信犯」的な音である。
 そしてきわめてコンテンポラリーな音とも言える。
 何も考えずに、ただ心地よい音に身をゆだねていればいい。
 クオリティはこれまでの「ポップス」の歴史が保証してくれる。
 やはり1stも聴いてみたくなった。

試聴
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オフィシャルサイト


Jeb Loy Nichols / Parish Blue

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 2009年リリースの新作。
 前作'Days are Mighty'以来ほぼ2年ぶり。レーベルは'Compass'。
 レコーディングは、ほぼ彼一人でウェールズの自宅で行われたようで、3曲に'musical help'として'Martin Harrison'がクレジットされているのみである。
 だから音は薄めだし、何となく「デモ」っぽい風情も漂っているが、音楽そのものにはこれまでと何の変化もない。
 つまり、ソウルとカントリーとレゲエを中心にしたルーツ系音楽の融合体とでも言おうか。
ただ収録曲に、いくつかカヴァーが含まれているのが少々眼を引く。また前作からタイトルトラックともう1曲が再演されてもいる。
 全体に、ヴォーカルや楽曲そのものには、ゆるやかなグルーヴがじわじわと浸透してくるという趣がこれまで同様感じられるのだが、やはり、いつものような、バンドメンバーによって作り出される人肌の「あたたかみ」のようなものにいくらか欠ける嫌いはある。まぁ、仕方ないところではあるが。
 ただ、ダビーで、前作のヴァージョンよりさらにな柔和な表情を見せる'Days are Mighty'もなかなかおつなものである。
 何となく「つなぎ」のアルバムのようにも感じられるが、こういうのも、また悪くない。
 しかし鼻歌みたいに脱力した彼のヴォーカルはどの季節に聴いても、たとえば10年も会わなかった旧友が3日ぶりみたいに応じてくれるような安堵感を与えてくれもする。
 それだけで充分なのだろう、きっと。

 で、なんとすでに次作のインフォメーションが届いた。なんと今年9月リリース予定の新作は、あの'Tru Thoughts'からのリリースされるという(正確には、傘下の'Impossible Ark'からということのようだ)。また今作と趣を異にしてイギリスのジャズ・ミュージシャンをバッキングに迎えているという。これはやはり期待してしまいそうだ。

 試聴

Reg King / Reg King

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 元Actionのリードシンガーの唯一のソロアルバム。
 結構な期間、中古市場で探していたのが、先日入手。
 アクション自体は聴いたことがないが、試聴する限りにおいてはモッズスタイルの割りにポップなバンドという程度の認識で、さして訴求力はなかった。
 が、この71年リリースのソロ作品は違った。
 ブルース、R&B、スワンプ等々の要素が絡み合った王道ブリティッシュ・ロックである。
 バッキングには主に、アクションから発展したらしいマイテイ・ベイビーのメンバーを中心に、ミック・テイラー、ブライアン・オーガー、エルトン・ディーン、ニック・エバンスなどというクレジットもあり、さらに噂によると、'Down the Drain'に'Mystery Man'としてピアノにクレジットされているのがスティーヴ・ウィンウッドということらしい。
 なお、オリジナルの9曲に加え、ミックス違いやヴァージョン違い等、都合7曲のボーナトトラック付き。
 曲は、共作が大半だが、すべてレグ・キングがコンポジションに関わっている。プロデュースも彼自身。
 ヴォーカルを一聴して思い浮かべたのは、テリー・リードである。声質も唱法も似ているように思う。時折、あれ、テリー・リードを聴いていたんだっけ?と勘違いするほどである。ということで、そういう意味では、古典的な白人ロック・ヴォーカリストとしては、私の趣味の真ん中近くのタイプのヴォーカリストと言っていい。
 バッキングは、やや粗いと言えば粗いが、楽曲の魅力とヴォーカルの強力な訴求力のせいもあってか、さして気にならない。
 曲も、それなりに聴きやすいメロディとグルーヴを持っており、ある程度ヴァラエティにも富んでおり、出来はいい。
 しかし、これだけのものを制作しておきながら、この一作でミュージシャンとしてのキャリアを終えてしまうというのがわからない。
 時代にそぐわなかったとはとても言えず、つまりは本人の意向ということになるのか。もったいない話である。
 リイシューされてからは、HMVやアマゾンのマーケットプレイスあたりでは手に入るようなので、興味のある向きは一考を。
 試聴できるところを探したのだが、残念ながら見当たらなかったのでご了解を。

part timer / part timer

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 remote viewer主宰のレーベルmoteerからのリリース。
 先にClickits名義で同じレーベルからリリースのあるユニットの一人John McCaffreyによるPart Timerとしてのデビュー作。
 John McCaffreyは、ちなみにオーストラリア出身のようだ。
 かそけく淡い女性ヴォーカルが3分の1ほどの楽曲にフューチャーされる。アコースティックな肌触りにエレクトロニックなトリートメントを付加した按配か。
 メロディアスでメランコリックな曲想が大半を占め、質感は非常に繊細でセンシティヴなただずまい。
聴いていてふと思ったのは、このpart timer初め、このレーベルのイメージは、どことなくかつての「サラ(sarah)」を想い起こさせるということである。
 純アコースティックとエレクトロニカという括り方の違いはあるものの、少々感傷的だったり、繊細だったりする楽曲のイメージは結構重なりそうだ。
 だとすると、問題は、かつて「サラ」をそこそこ聴いていて、あれは今はさすがにつらいと思っていた50過ぎのおっさんが、今また似たようなものを聴いているという事実である。
 いいのか、おっさん、こういうことで。
 ま、仕方ないよな。
 言い訳するようで何だが、このアルバム、決してそうした音だけで占められているわけではない。音響的にもかなり配慮がなされており、また音楽的にもトラッド的な要素も垣間見えたりもして、そうしたレンジの広さも感じさせる、ということにしておこう。

 試聴

42 / 100

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42. Simon & Garfunkel / Greatest Hits

 これをすっかり忘れていた。
 最初に買った彼らのアルバムだったはず。シングルでは「明日に架ける橋」は既に持っていたような気がする。
 中学生か高校生の時の、つまり洋楽の初期段階である。手に入れたのは、ポール・サイモンはもうソロ活動を始めていたような頃だったと思う。レゲエを採り入れた「母と子の絆」とか「僕とフリオと校庭で」とかがヒットしていた。
 "Sound of Silence"、"I am A Rock"、"Scarbrough Fair"等、文学的だったり、ある意味「ロック」的だったりする詞の世界に惹かれた最初のミュージシャンかもしれない。"America"という彼らが一旦解散する時期近くのシングルも好きだった。




Mountains / Choral

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 ブレンダン・アンダーエッグとコーエン・ホルトカンプのユニットの2008年、スリル・ジョッキーからの新作3rd(かと思っていたらスリル・ジョッキーのサイトを見ると4枚目かも)。
 アンビエントに傾いたエレクトロニカというべきか。
 クレジットによるとアコースティックギター、エリクトリックギター、ハーモニウム、メロディカ、アコーディオン、チェロ、エレピ、オルガン、シンセ等にフィールド・レコーディングを加え、さらにエレクトロニクス、コンピュータ処理を施して制作されたとのことらしい。
 前半に比較的メロディアスで耳になじみやすい作品が置かれ、後半にドローンとかアンビエントという楽曲が登場するという配置か。ただ後半部も含め、全体にメランコリーを感じさせるあたりは日本人好みではないだろうか。個人的にはもう少し、その部分が薄味だったらと思わないでもないが。
以前、2ndの'sewn'を聴いたときにはこれほどメロディが強くなかった印象があったが、どうだろう。いずれ近いうちに聴きなおしてみたい。
 全体に音の響きの秀麗さは特筆されるべきだろう。それが、レイヤーを増してある種の混濁が生じる際の迫力は圧巻である。音自体の持つ(音楽ではなく)物理的なパワーさえ感じた。
アルバム後半部には、イーノのアンビエントに近いものを感じた。
 いずれにしても秀作。

 試聴1
 試聴2

Janek Schaefer / Extended Play [ Triptych for the Child Survivors of War and Conflict]

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 Janek Schaeferのアルバムをもう一枚。
 ギャラリー内でのインスタレーション作品として使われた音楽の再構築化アルバム。
 やや複雑な設定とその意図はバックカヴァーに記されているが、その内容が比較的要領よくまとまっているここなどを参考にしていただきたい。
 要は、9台のターンテーブルから流れるチェロ、ピアノ、ヴァイオリンの偶然による音響効果を再構成したものということになるのだろう。各々の楽器による楽曲が1曲ずつ収められ、その後3つの楽器によるアンサンブル、さらに最後に第二次大戦中のポーランドのラジオ音源が加わる。
 聴いてみて、ここも偶然によるはずの音楽が、ここでも実に「音楽的」に聴こえるということに改めて驚く。
 むろん、意図されたものよりはずっと不安定だし、不規則だが、だからこそというべきか、偶然のもたらす「豊かさ」はそこに否定しがたく現れている。
 同種の音が、また異種の音が回転数を変えて、重なることで、たとえば倍音のもたらす効果のような、時空の広がりが生まれるということも含めて、示唆深い実験であり、音であるように思える。
 そこには、上記でリングしたサイトでも触れられていたように、彼の母と彼の娘もまた重ねられているわけだろう。
 個人的に最も心動かされたのは、3つの楽器が重なる24分ものアコースティック・アンサンブルである。
 静かで穏かな、そして豊かでたおやかな時と空間の重なりがそこに広がるような、名状しがたい印象を残す。
 傑作、かな。

試聴
Janek Schaeferのサイト内の本アルバムページ

Janek Schaefer / Alone at last

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 最初に聴いたステファン・マシューとの共同名義作 'ヒドン・ネーム(Hidden Name)' も印象に残るJanek Schaefer(ヤネック・シェーファー?)の単独名義アルバム。
 インナーの表記によると1997から2007年に間の"commissioned compositions"、つまり注文作品ということだろうか、を集めた作品集のようだ。
 全8曲63分ほど。
 基本的に彼は「ターンテーブリスト」として紹介されることが多いようだが、確かにターンテーブルは使っているようだが、あまりそこにこだわる風情もなさそうに思える。
 音源は、クレジットには参考になるようなことはほぼ何も記されていないので、彼のサイトのコメントやネット上の記事を参考にすると、フィールドレコーディングや人の声、あるいはアナログレコード等で、それらをミックスして制作されたもののらしい。
 基本的には、「アンビエント」作品といっていいと思う。「音楽的」なメロディーやリズムは、ほぼここには存在しない。ただここで響く音響は、ある意味できわめて「音楽的」にも聴こえる。
 アルバム序盤は音の出し入れが結構あるが、徐々にあたりに静寂が立ち込めてくる。緩やかな波動、空間的なパルス、静寂の発する音、あるいは残響、そしてフィールドレコーディングによる環境音。
 イーノを連想させるような部分も少なくない。アルバム後半は、ことに「アポロ」を思い出したりするような「宇宙的」あるいは「宗教的」な、とも言いうるようなサウンドスケープが広がる。
 そしてタイトルが'Alone at last'。
 切ない音である。

 試聴

41 / 100

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41. Sting / The Dream of the Blue Turtles

 ポリスはジャムよりは聴いていたが、オリジナルアルバムはたぶん一枚も持っていなかったような気がする。「シンクロニシティー」は微妙なところではあるが。
 いずれにしろ、スティングの、この1stソロは買った。こちらには、ブランフォード・マルサリスとかケニー・カークランドとかいったジャズミュージシャンが参加していたことは当時さほど意識していなかったと思うのだが、ポール・ウェラーと何だか同じように、パンクはダメだが、ブラックミュージックはOKという図式も立てられるのかもしれない。今初めて思いついたことだが、どうなんだろ。
 いずれにしろ、高品質、スキルフルな音が、スティングの音楽的な素養の幅広さをサポートしていて、野性味と洗練が上手く混ざり合った仕上がりになっている。

Sting: "If You Love Somebody Set Them Free" (1986)


Diane Birch / Bible Belt

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 各ウェッブサイト、ブログ等で絶賛の女性SSWのデビューアルバム。
 大して期待せずに、アルバムタイトルにはちょっと警戒しながら、とりあえず試聴してみたら、参りましたということで購入の運びとなってしまった。
 曲は、すべてダイアン・バーチ自身。
 プロデューサーにはスティーヴ・グリーンバーグ(このアルバムのレーベル'S-Curve'のヘッドで、ジョス・ストーン等のソウル方面の仕事も多いようだ)、ソウルシンガーのベティ・ライト他都合3人の名前がクレジットされている。
 参加ミュージシャンには、シンディ・ブラックマン、レニー・ケイ、スタントン・ムーア、レニー・ピケット等の著名どころが並ぶ。
 一聴して思い浮かべたのは、ローラ・ニーロであり、あるいはキャロル・キングであり、場合によっては、少しリッキー・リー・ジョーンズも、と、いずれにしろ60年代、70年代の、ソウルやフォーク(ジャズもちょっとあるか)のフレイヴァーを滋養豊かに織り込んだ先達から受け継いだ音楽性と、彼女自身の、バックカヴァーやインナーに映し出された見るからに華奢の風貌とは不釣合いなほどの豊かな、そしてちょっとハスキーな声が最大の魅力だろう。あとは、容貌のコケティッシュなところも、か。写真を見ると、何となくファッションのセンスも70年代っぽい感じもするが、そのあたりには極めて疎いので、ただの感想に過ぎないが。むろん「狙った」ということもあろうかと。
 ともかくアルバム冒頭の'Fire Escape'の頭、'Goodby My Love'という歌い出しからして、そうした音楽を聴いてきた年齢の聴き手を振り向かせるに充分である。
 曲も、皆よくこなれていて、ほどよくポップ。さらに、上記のアメリカンルーツ・ミュージックと、現代から見ると「ちょっと懐かしい」くらいの「アーバン」なムードが微妙に溶け合い、実に心地よい、音楽が立ち上がってくる。ローラ・ニーロの曲でもよく耳にできたゴスペル風コーラスも悪くない。やはり全体にはソウルの影響は色濃いように思える。レコーディングがニューヨークとニューオリンズで行われているということもそのあたりと関連があるのだろう。

 ちなみにアルバムタイトルの'Bible Belt'(バイブル・ベルト)については、「英辞郎」には「キリスト教篤信地帯、聖書原義主義の影響が強いアメリカ南部・中西部」というような記述がある。
 彼女自身はミシガン出身で、父親はキリスト教の伝道師、世界各地を転々とした経験を持っているとのことだ。そういう経歴を踏まえると、確かに、この音は、「アメリカ」ないし「アメリカン・ミュージック」を一度対象化してから出てきたもののようにも思える。
 そう考えると、それが意識的なものあろうとなかろうと、ある種の「編集」能力と言えるかもしれない。ただそれが、ここまで「シームレス」というか「天衣無縫」というか、であればむろん立派な才能である。

マイスペ
オフィシャルサイト

Once11 / Smile Hunter

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 2006年、DJ Olive主宰(?)のレーベルthe agricultureからのリリース。
 ウルグアイ出身のIgnacio PlataによるOnce11名義のアルバム。
 ダブとエレクトロニカと、あと何だろ、エスニック趣向もあるのかな、という結構多様な要素・音響の割りに雑然とした印象のミクスチュア。
 主導しているのは「ダブ」と見ていいかもしれない。
 とりとめはないし、メリハリもほぼないが、音はおもしろい。
 情報によると何でも、インスタレーション等美術や映像のフィールドでも活動しているらしいというのも、音からわかる気がする。
 インプロ的なアンビエント・ミュージックとでもいおうか。

 試聴

堀江敏幸 / めぐらし屋

めぐらし屋堀江敏幸

 久しぶりに読んだ堀江敏幸。彼の著作はいまだに「出ると買う」パターン継続中なのだが、この2,3年、他で時間を取られることが多くなかなか手に取ることができなかった。ここへきてようやく購入済みの数冊を読み始めたところである。まずはこちらから。
 全190頁ほどの小説。そういや、この著者に限らず、小説自体、読書するのがかなり久方ぶりだったりする。
 読後もそうだが、読中も、まことに快適な時間を過ごすことができた。この作家の作品の中でも、個人的には、かなり好きな作品になった。
 三人称語りの文章で、主人公は「蕗子さん」と呼ばれる。三人称語りで、登場人物に「さん」という敬称を付けるのは珍しいように思うが、文体や小説のムードからは何の違和感もなく受け入れられる。
むしろ、読み進むほどに、これは「蕗子さん」と呼ぶほかないという気になってくる。
 物語は、彼女が、亡くなった父親の借りていたアパートの一室で、文机の引き出しから大学ノートを見つけるところから始まる。
 それを取っ掛かりにして、父親がその部屋で請け負っていた「仕事」を探り、辿っていくさまが描かれる一方で、勤務する会社の同僚や後輩、また友人等とのごく日常的な交流や新しい出会いが、ユーモアを織り交ぜながら丁寧に描写されていく。そう、物語の一応の本筋以外のちょっとした事柄についての描写が実に細やかなのである。さらに、蕗子さんの、ちょっと不器用だったり、抜けていたりするところはあるものの、いやだからこそと言うべきか、まっとうに正直な生きていこうとするその姿勢には、ああいなぁこういう感じと、陰ながら声援を送りたいような気分になる。物語が終わってからもそのさりげないけれど、一つ一つのことを自身の事柄としてきちんと引き受けようとする彼女のその先を、何だか伴走者として見守っていたくなるような、そんな物語である。
 お薦め。

THE LAST ELECTRO-ACOUSTIC SPACE JAZZ & PERCUSSION ENSEMBLE / SUMMER SUITE

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 Diskunionのサイトによると、
 2007年の'Yesterdays Universe'のリリースの際にファンクラブオンリーとして発表された音源ということらしい。
 それが今年STONES THROWから公式にリリースされたということのようだ。ちなみにジャケは、重厚紙仕様。私はUnionの店頭で買ったのだが、クレジットは、レーベルと"PRODUCED BY MADLIB"とあるだけ。
 このパターン、かつてYNQがスティーヴィ・ワンダーのカヴァー・アルバムをリリースした時とほぼ同じじゃないのかな。
 一応ミュージシャンネームとしてクレジットされている'THE LAST ELECTRO-ACOUSTIC SPACE JAZZ & PERCUSSION ENSEMBLE'は上記の'Yesterdays Universe'に収められた楽曲にも2曲にクレジットされている名義である。
 アルバムは、1トラックで全40分少し。だが、途中でかなりはっきり曲調が変化するところがあり、実際はいくつかのパートに分かれていると考えていいと思う。
 全体にサウンドは、上記アルバムがそうだったように、メロウで聴きやすいものに仕上がっている。
曲想は、上記のように、メロウの極地だったり、かなりグルーヴィーだったりと途中で何度かシフトチェンジするが、概ね、ジャズ・フュージョンとブラジリアンを基調としたひたすら心地よいもの。
 リゾート的というか、リラクゼイション的というか、しかし安易にも、ありきたりにもならず、「筋の通っている」ところがMadlibのMadlibたる由縁だろう。それもこういうクオリティのものを、これまで公式にリリースしてこなかったわけだから、何と言うか。
 個人的には夏の定番のひとつである、クール&ザ・ギャングの"Summer Madness"が出て来るところに最も反応してしまったが、いや、この夏はひとつこれで乗り切っていけるかと思わせる音である。
傑作。

試聴

Luciano Souza / Tide

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 ルシアーナ・スーザの新作。
 プロデュースは前作同様、夫君のラリー・クライン。
 前作が、全編英語詞で統一されていたのに対し、今作ではポルトガル詞の作品が全10曲中3曲含まれている。
 オリジナルは、ほぼスーザとクラインを中心にした共作形式で、ポルトガル詞の楽曲3曲中2曲は、ジョアン・ジルベルトのレパートリーのようで(コンポジションは別)、もう1曲は、Paulo Leminskiなる詩人にスーザが曲をつけたもののようだ。またE. E. Cummings(英語詩)に曲をつけた楽曲も含まれている。ほかにポール・サイモンのカヴァーが1曲。
 参加ミュージシャンは、プロデューサーのクライン、おなじみのホメロ・ルバンボ以外には、ヴィニー・カリウタ(しかしよく出てくるな)、ラリー・ゴールディングス、ラリー・クーンス等。
 オリジナルもカヴァーも楽曲もアレンジも皆、実によくできている。前作と甲乙付けがたい完成度。ミュージシャンたちも皆、いい仕事をしている。
 前作との違いは、ポルトガル詞の楽曲のもたらす、リズムと陽性の空気だろうか。ただやはりなんと言ってもアルバムの色を決定づけるのは、彼女の透明な、そして落ち着いた声である。
 そういう意味では、前作との大きな違いはない。その3曲もアルバムの流れの中で適度に新鮮に響く。
 いや、それにしても、この音楽全体が、彼女の声同様に、清水のように清新な感触に満ちている。そんな風に感じさせるような音は、そうはない。

 試聴

Malcom Kipe / Breakspiracy Theories Library Beats & Instrumentals

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 Merckからのインスト・ヒップホップアルバム。2005年リリース。
 とは言え、それなりの頻度でMCが登場したり、ヴォイスが入ったりはする。
 サンプルや生音として使用採用される音色はかなり幅広い。
 この類の音では、あまり聴いたことのないような音が耳にできる。
 「スピーチ」、鳥の声、ハープのような音色、中国の弦楽器みたいな色、はたまた「ゴッドファーザーのテーマ」のメロディ、インダストリアルなノイズ的な音等々。ほかにもおそらくエスニックな楽器や音楽からのサンプルやフィルドレコーディング等はかなり採用されていそうな気がする。
 全19曲で53分ほど、ということで結構短いトラックが次々に出て来ては入れ替わるという体裁だが、これがここでは功を奏しているように思える。
 これはおもしろい。ある意味で、「カット&ペースト」というか「エディトリアル」というかのセンスが問われるこの手の音の中でも、結構大胆な試みがなされ、ある程度以上に成功している作品ではないかと思う。
 かといって従来のヒップホップ的なスモーキーな感触は決して失われていないところもいい。
 あえて難を探せば、上記のような音の多様さに、聴いていて少々疲れる可能性があるところか。私はそういうことはなかったけれど。

 試聴


40 / 100

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40. The Style Council / Cafe Bleu

 ミニアルバムで気を持たせた後の、1stフルレングス・アルバム。
 ポール・ウェラーという人は、年齢的にもちょっとだけ下の、ほぼ同世代のはずだが、少なくともジャムにはほとんど関心がなかった。ま、こっちがパンクやニュー・ウェーヴについていけなかっただけのことかもしれないが。しかしその次のミック・タルボットとの、このプロジェクトがぐっとソウル寄りの音になったことが幸いしたのかしなかったのかよくわからないが、こちらの音にはすんなり反応することが出来た。結局、解散するまでアルバムを聴いたんじゃなかったかな。
 名曲"My Ever Changing Mood"(スロウ・ヴァージョン)、そしてトレイシー・ソーンがヴォーカルをとる"The Paris Match"収録。

The Style Council





Tuomo / Reach Out For You

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 フィンランドのキーボードプレイヤー/シンガーの2ndソロ。
 曲とプロデュースは本人。ホーンやストリングも前作同様アレンジされている。
 一聴して60年代、70年代のソウルマナーを現代によみがえらせたブルー・アイド・ソウルが何のギミックもなく伝わってきた前作と基本は同じだが、前作よりは、曲自体は、全体にやや地味な印象を受ける。前作に含まれていた「どキャッチ−」な曲が目につきにくいせいかもしれない。とはいえ、それでも各々の楽曲は充分に「キャッチー」ではあるのだが。
 曲想には、オールド・ソウル以外の要素も、結構窺える幅が出てきたように思う。
 ただむしろ彼自身には、前作がヒットしたこともあるのだろう、ある種の「自信」のようなものが出てきたようにも感じられる。いくらか幅が広がろうが、オールド・ソウル・ファンクベースの音楽性は自身にとって自然体であり、不動であるというような。
 だからクオリティは、前作と変わらないというか、むしろ向上しているようにさえ思える。たぶんこの中にはさまざまな「ネタ」も含まれているのだろうが、そちらに疎い私にはよくはわからなかった。が、前作同様、少なくとも心地よい50分ほどを楽しめるのは確かだろう。

Earl Klugh / Naked Guitar

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 久しぶりに聴いたアール・クルーのアルバム。2005年Kochからのリリース。
 以前結構好きでよく聴いていた時期があったのだが、しばらくごぶさたであった。が、この間、中古で安く近作が拾えた。
 彼のアコースティックギターのみによるソロギター集である。
 1曲含まれるオリジナル以外は、すべていわゆるスタンダード。
 艶やかで滑らか、はかなくも落ち着いた風情を漂わせる。選ばれた楽曲とアレンジの作法が、またそうした趣に十全に適っている。
 たぶんその反対ではないだろう。この涼しげで、軽やかな、しかししっとりと密やかな音のムードがまずは先にあったのだという気がする。そのくらい音の形成する場は、自然体の心地よさを醸し出す。
 個人的に好きな曲のひとつ「ムーンリヴァー」も、「懐かしい」感覚が静かに立ち込めてくるような仕上がりになっている。
 いや、悪くない。

マイケル・ジャクソン 訃報


 最早、時期を逸しているし、つまり「今更」だし、UPするのはやめようかとも思ったが、とりあえず。
 マイケル・ジャクソンが亡くなった。
 ただ、私は彼の死に対して、何かを述べたり書いたりするには明らかに不適任なので、ただいつものように、ご冥福をお祈りしますと記すだけにとどめたいと思う。
 まぁ、そういうことしか記せないスタンスだったということです。

 

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